

メトロと蜘蛛の巣
この一皿は、3nowaの入るメトロシティ小伝馬町の貸主「メトロ都市開発」さんへの感謝とオマージュの一皿です。
ブランタード(魚とじゃが芋のペースト)の上に路線図を描きました。
バーニャカウダソースの雪化粧が光にウォーマーランプに溶かされていく様子も含めてお楽しみください。
以下 開発経緯の為 長文になります。
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雪迎え
東京には冬でも雪が降らない。
天気予報は雨なのに。
乾いた空気の中、地下鉄に乗って通勤する。
初めて一人で東京に来たのは、「二十歳」になってからだった。
就職した軽井沢は冬場になると仕事がなくなるため、本社のある東京に1ヶ月間、飛ばされる。
初めて出た「丸の内線・四谷三丁目」は新宿の隣にあって昼夜、救急車のサイレンが響いていた。
近くにある寮は、ほこりっぽい匂いとシミだらけの床、下駄箱の蜘蛛の巣は、夢見た東京とは違う気がした。
出張先の仕事は、深夜2時に出勤して、パン屋さんの開店前に惣菜を作り、並べる仕事だった。
昼には仕事を終えて、コンビニで夕食を買って「いいとも」と「牡丹とバラ」を見て就寝に着くような昼夜逆転の生活だった。
それでも、ハタチの目に映る東京は新鮮で刺激的だった。
次第に終電を逃し走って出勤したり。
立ったまま寝れるくらい遊びまわっては
東京の魅力に呑まれて行った。
3年後、雪迎えのごとく、
小蜘蛛が新天地を求め、きらめく細い糸を伝う様に上京を決めた。
はじめは山手線の内回りと外回りに混乱した。
新宿駅は目的の出口を求めて迷子になり、
渋谷は乗換の→(矢印)に翻弄される「迷宮」だった。
それでも複雑な路線図も19年かかって地名も駅もだいたいわかるようになった。
夜桜に浮かれた「日比谷線中目黒」も
終電を寝過ごし途方に暮れた「大江戸線光が丘」も
霞に浮かぶ「三田線芝公園」からの東京タワーも
手を引いた「銀座線上野」も
好きな人に出会うたびに
知らない路線や
知らない街に詳しくなった。
日比谷線小伝馬町駅の改札を抜け、3番出口に向かう。
不意に光の粒が浮かんで揺れている。
「雨上がりの蜘蛛の巣」に水滴がで輝いている。
網の目の東京路線図と重なる。
あの日の思い出が輝いて見えた。
好奇心と憧れを放り投げて上京し荒波に翻弄されながらも、いつのまにか東京が好きになっていた。
雨は通り過ぎたようだ。
空には、晴れ間も見える。
電車到着の風圧が背中を押す。
まだ、 先は見通せないこんな時期だけど、
さあ、先に進もう。
新しい街にどんな輝きを描こうか。
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「雪迎え」は晩秋の小春日和の日に、糸をつけた子蜘蛛が空を飛ぶ現象。